2009年 12月 22日
風力発電。その功罪。 |
秋頃、きんくろが北海道自然観察協議会(NACS-J観察指導員北海道連絡会)で活動時にお世話になっていた方から、小樽銭函地域の風力発電建設計画問題に関する活動のために「銭函海岸の自然を守る会」を発足した旨と、その活動への協力依頼が各所に発信され、うちにもまいりました。
「添付した資料などはどこにでも誰にでも送っていただいて結構です。」ということですので、こちらでも紹介します。
銭函風力発電計画については以前からチラホラ情報が聞こえてきてたのですが、離れているもどかしさ、なかなか詳細がわからずにいました。
この依頼後も会は北海道知事への要請書提出、小樽土木現業所との会談、風力開発会社からの説明会開催など活動を展開させ、先日、発起人の後藤先生からは
「「日本風力開発」がボーリング調査を始めるところだったのを、許可した
土木現業所と風力開発会社に抗議し中止を求める活動を実施し、「12
月1日に事業者と話し合い、「地質ボーリング調査は当面行わない」とい
うことを約束させました。(これについては検討すべき問題あり)」
とのご報告がありました。
まずは、合同教育研究全道集会での報告文書が添付されていたので、ご紹介します。
***(以下転載)**************
合同教育研究全道集会報告
第21分科会 環境・公害と教育
巨大風力発電の問題点-銭函砂丘の生態系を破壊して-
銭函海岸の自然を守る会 後藤言行
1.何が始まろうとしているの
銭函海岸に巨大風車が建設されることを知ったのは、今年の5月16日の新聞報道によってである。報道の内容は
1)「日本風力開発」が出力2000kwの発電機20基を銭函海岸に建設する
2)最大出力は4万kwであり、宗谷岬の57,000kwに次ぐ道内第2位の規模となる
3)3万kwの蓄電池施設も併設する
というものであり、これに対する小樽市の反応としては
1)蓄電施設の建設により固定資産税が期待できる
2)自然エネルギーの大規模な拠点誕生は市の環境イメージを高める
3)企業誘致促進や工事にかかわる経済波及効果も期待できる
4)情報収集などで建設計画をサポートし、企業立地促進条例で2年間の課税を免除する
と、手放しで歓迎している。
この報道は前日に行われた小樽市長の定例記者会見に基づいており、小樽市のHPで確認しても報道に誤りはない。
2.どこに、どんなものが造られようとしているの
風車建設が予定されている地域は「銭函4丁目および5丁目」の約5kmの海岸砂丘上である。一般的には「新川河口?石狩湾新港・西端」と呼べばわかりやすい。(別紙1およびスライド参照)
もともとこの地域は石狩町(旧)であったものだが、石狩湾新港建設にあたって石狩町から小樽市へ「無償で譲渡された」ものである。石狩湾新港の建設費の一部を小樽市に負担させるための措置だ、という人もいる。
建設予定の風車は支柱の高さ77m、支柱の根元の直径4.3m、ロータ-(回転翼)直径83.3m、地上からの最高の高さ118.6mとされる。設計図(スライド参照)を見てもその大きさはピンとこない人が多いのではなかろうか。
3.銭函海岸とはどんなところ?
「銭函海岸と聞いてどんなイメージが湧きますか」と聞くと、多くの人がとかく評判の海水浴場の名前を挙げる。しかし今問題になっている銭函海岸は、自然がそれなりに良好に保存されている海岸のことである。
自然の砂浜海岸は 砂浜、砂丘、後背湿地、後背林 と続くひとまとまりの生態系である。銭函海岸ではこのまとまりのある生態系がよく残されていて、特に後背の天然カシワ林は日本一と評価されている。石狩湾新港の建設で真中から分断されてしまったにも関わらずに(スライド参照)。
一般に海岸の生態系は、厳しい自然条件のもとで微妙なバランスの上に成り立っている脆弱なものである。スライドで見ていただいたように、地図に示されているような「荒地」では決してない豊かな生態系ではあるのだが、外部から加えられる環境圧にはきわめて弱いのだということを強調しておきたい。
4.建設工事はどんな具合になるの
(1) 基礎工事
7月31日に行われた業者の説明会によれば、ポール(支柱)の基礎工事は20m・20m深さ5mの穴を掘削して行われる。そこに最上部に直径4.3mのポールを乗せる台が頭を出す。基礎工事の途中および完成の写真(スライド参照)は同じ会社が江差で建設している風車のものだが、この土台の下には基礎杭として長さ42m、直径1.5mの杭が8本打ちこまれているという(視察日10月27日には基礎杭は見ることができなかった)。
なお、江差の場合は休耕田に建設されている。銭函海岸の場合は砂丘である。
(2) 作業道路
必要とされる道路は幅6m以上といわれる。車両のすれ違い、カーブなどを考えると部分的であってももっと広い面積が必要であろう。その道路は当然砂丘上に作られる。
(3) 工事用地
江差の工事現場では30m・50m=1,500m2 ということであったが、視察した江差の場合、それよりも広い工事用地がとられていた。たとえ20m・20m深さ5mで掘った土砂2000m3をそのままの形で積み上げることができても、それ以外のスペースで大型車両が作業するのに十分な広さとは思えない。
5.「銭函海岸の自然を守る会」は何を心配し、何を要求しているの
(1) 生物種の多様性を守るのは未来に対するわれわれの責任
7月14日に結成された「銭函海岸の自然を守る会」は「銭函海岸の自然をまるごと残そう」とのアピール(別紙資料)を発表した。ナキウサギのような生物がいる・いないにかかわらず、生物多様性を守るためにも今ある自然をまるごと残す必要があると考える。 特に自然海岸が少なくなっている中で、札幌のような大都市の近郊でこれほどまとまった良好な自然環境が残されている海岸はきわめて貴重な存在である。
繰り返し強調しているように、砂丘に成立する生態系が微妙で脆弱なバランスの上に成り立っているものであるがゆえに、いまこの生態系を破壊してしまえば永久に回復することは不可能になるであろう。
(2) 「環境影響評価方法書」のインチキ性
2度にわたる資料の請求に対して応じなかった会社側は、市役所の企画政策室の片隅に机一つをおいて「環境影響評価方法書」の「縦覧」を行った(スライド参照)。
風力開発会社の「方法書」の問題点はたくさんあるが、ここでは「動植物の生息または生育、植生の状況」に絞って述べる。
方法書では「北海道レッドデーターブック」や環境省の「生物多様性調査」などから生物種を抽出し「重要種の絞り込み」をおこなっているが、第一次で絞り込まれた種子植物17種のうち、「植物調査範囲」(「風車建設予定地」及び「道路用地」であると見なされる)(スライド参照)の砂丘地帯には決して生えないであろう植物がなんと14種も並ぶ。あまりにもばかばかしいので全種をあげておくが、要するに麗々しく植物名を並べることで市民に対するコケオドシをしているとしか思われない。(スライド参照)
・明るい広葉樹林に生えるもの:エゾエノキ、フクジュソウ、シラネアオイ、ヤマシャクヤク、オクエゾサイシン、エゾムグラ、キヨスミウツボ
・水中もしくは湿地に生えるもの:ハイハマボッス、チョウジソウ、タヌキモ、ミクリ
・海岸の断崖や岩場に生えるもの:エゾマンテマ、コハマギク、ピレオギク
・海岸の砂浜・砂丘に生えるもの:イソスミレ、エゾナミキソウ
・図鑑(梅沢俊氏)に載っていないもの:キセワタ(下線は第二次で絞り込まれた5種)
もう一つ、動物について述べているくだりを紹介する。巨大コロニーとして世界的に有名なエゾアカヤマアリについてである。(スライド参照)
『なお、保全措置の検討に際しては、調査結果を基に学識経験者の指導を仰ぎ、必要に応じてコロニーの移転や代替え生息地の創出などの保全対策についても検討する』
重要種の絞り込みやアリのコロニー移転を進言する「学識経験者」がいるのである。
(3) 低周波、超低周波の問題
全国に巨大風車がたくさん建つようになり、ようやくクローズアップされてきた問題に低周波・超低周波による健康被害がある。いや、最近になってようやく分かってきたのではなくて企業側(建設・製造会社、電力会社など)や、場合によっては行政によって抑え込まれたり沈黙させられてきたものが、抑えきれなくなって今、吹き出てきた感がある。
低周波の問題は直接五感でとらえにくい刺激であることや、その(エネルギーの)大きさなどの測定方法が一般的に普及していないこと、したがって(それをよいことにして)政府は安全基準や環境基準の策定をサボタージュしてきたものである。しかし、低周波などにより住民に深刻な健康被害がでていることは、行政やメーカーは早くから把握しており、開発当事者が自らの体験を踏まえて報告しているとの指摘(新聞報道)もある。
健康被害の実態は大気汚染と呼吸器疾患(喘息など)のように因果関係を特定しやすいものと異なり、めまい、吐き気、頭痛、不眠、耳鳴りから不安感、イライラ感など、「不定愁訴」を特徴としており、「低周波音症候群」と呼ばれる。潜伏期間や個人差もあって「過敏体質」「特異体質」で片づけられる(抑え込まれる)場合も多い。
さらに巨大風車によって出される5Hz以下の「超低周波」の被害は個人差も潜伏期間もなく現れ、低周波音症候群と区別して「超低周波空気振動症候群」の新名称が提案されているという。
銭函風車の場合、2km以内の範囲に稲北高校や手稲山口団地があるし、至近距離には工業団地で働く人たちがいる。
(4) 小樽市の対応に関して
小樽市は風力開発会社の「環境影響評価方法書の縦覧」に企画政策室を使用させている。 以前より小樽市は、過大な「楽観的予測」でハコものづくり(石狩湾新港、朝里ダム、築港ヤードのマイカル誘致など)に税金を投入し市民の負担を増やしてきた。
この問題はけ取り上げなければならないが、若干このレポートの趣旨と離れる面もあるので、次の指摘だけをして先に進みたい。
指摘することは「きわめて貴重な自然海岸の壊滅的な破壊を許しておいて(あるいは歓迎しておいて)将来、市民に対して責任が負えるのか」ということである。
(5) 砂丘を破壊するものは風車だけではない
砂丘の破壊に関してはバギー車やモトクロスバイクによるダメージ、ゴミの不法投棄による汚染もある。(スライド参照)ゴミの不法投棄に関しては行政による対応が十分可能であると思うが、バギー車などに対してはスライドに示す新聞記事の中で利用者が「悪いことをしているわけではない」と述べていることにカギがあると思う。
規制もさることながら、説得、啓蒙などにより市民合意を作り上げてゆくことの大切さ(困難さ)をつくづく感じる。
(6) そもそも風力発電はクリーンなエネルギーなのか。
最後に問題提起で終わるかもしれないが、みんなで調べ、学習し、考えてゆきたいこととしてこの問題を提起する。
発電しているときにだけCO2を出さなければクリーンだ、ではないことは当然である。
経済的効果から勢い「巨大へ」とひた走る風力発電は、低周波、超低周波一つをとっても早晩深刻な矛盾に突き当たることは必定である。
風力による発電量が増えた分、どの発電量が減ればよいのか、という問題もある。
不安定な風力電力供給の安全弁として、立ち上がりが早い火力発電が必須だとの主張もあるし、原発の暴走を防ぐためには他の「多様な」発電が必要なのだ、との指摘もある。
いずれにしてもエネルギーの使い方を論ぜずに生み出し方だけに論議が行けば、「どうしても必要なエネルギーなんだからある程度の犠牲はしかたがない」とか「原発はCO2を出さないからクリーンだ」などの主張に容易に取り込まれてしまうのではなかろうか。
(7) 追加 「補助金」をめぐる問題
原発にしても風力発電にしても、建設推進派はなぜにこのように強引に進めようとするのだろうか。
しっかりとした資料が入手できなかったのでこのレポートに述べることは控えたのだが、補助金の存在を抜きにしてはこの問題は語れないのではないかと思う。
補助金のからくりはかなり複雑・煩雑で、国や道の機関に問い合わせても明確な回答が返ってこない場合も多い。本当に知らないのか、とすればお粗末すぎるのでトボケテいるのではないかとも思われるのだが、「補助金を食いつぶして(そこで幾ばくかの利益を上げれば)あとはおさらばだ。風車が回らなくても発電ができなくても、損をする仕組みにはなっていない」と主張する人もいる。
さらには今年度から補助金申請の窓口が「資源・エネルギー庁」から、一般社団法人「新エネルギー導入促進協議会」に変わり、「地元調整」抜きで、つまり「地元承諾書」なしで補助金の申請ができるように変更されたという。
補助金はいうまでもなくわれわれ国民の税金である。「補助金に群がる貪欲なものたち」の図式そのものである。
***(転載ここまで)**************
日本で風力発電が「無尽蔵にあり、なにも消費せずなにも排出しないエネルギー」というふれこみで、増えだした頃。きんくろが当時住んでいた北海道苫前郡にも、数十機の風車が丘につぎつぎ建てられていきました。その頃は、まだ日本中が問題性をあまり認識しておらず、きんくろも「壮観だな〜」と眺めたりもしていました。当初はアセス対象でもなく「クリーンエネルギー」としてもてはやされ、ほぼ無法状態でどんどん建造されていきましたが、やがて環境関係者が首をひねりはじめ、その問題点が指摘され始めていったのです。
電力供給の不安定さからくる地方経済への負荷、騒音、振動問題、野生生物への負荷 etc...
なによりこれは人間が作る巨大建造物です。土地をならし、掘り返して基礎をうち、広大な敷地を維持管理して、しかも上空数10mまで占有する巨大建造物。得られる電力に対し、その環境&人間生活への負荷の割りにあわなさ、いかばかりか。
確かに風力はCO2も放射性物質も出しませんが、ほんとに予測不能で人間の制御できるエネルギー源ではないのですよ。「明日は明日の風がふく」のとおり、日本の気象条件では安定供給がのぞめるとは考えられません。何年か前ですが、予定の電力が得られなくて早稲田大学がつくば市に損害賠償の判決を下された裁判は、記憶に新しいですよね。まあこの件はいろいろ問題要素がゴタゴタしてたのですが、まずは現在の国内の現状としては、法制度、業界の経済的側面、技術面、からも事業として成り立たせられる状況ではないことをあらわにした件だと考えています。
風力発電を完全に否定するつもりはありません。たださまざまな問題点が指摘されはじめて10年余り、なのにいまだに「クリーンエネルギー」音頭で地方自治体が踊らされ、手放しで建造が奨励されている現状、リスクが大きすぎると思うのです。
参照:<小樽ジャーナル> 記事(2009/10/02)
「銭函海岸の自然を守る会発足 風力発電の影響訴え」
「添付した資料などはどこにでも誰にでも送っていただいて結構です。」ということですので、こちらでも紹介します。
銭函風力発電計画については以前からチラホラ情報が聞こえてきてたのですが、離れているもどかしさ、なかなか詳細がわからずにいました。
この依頼後も会は北海道知事への要請書提出、小樽土木現業所との会談、風力開発会社からの説明会開催など活動を展開させ、先日、発起人の後藤先生からは
「「日本風力開発」がボーリング調査を始めるところだったのを、許可した
土木現業所と風力開発会社に抗議し中止を求める活動を実施し、「12
月1日に事業者と話し合い、「地質ボーリング調査は当面行わない」とい
うことを約束させました。(これについては検討すべき問題あり)」
とのご報告がありました。
まずは、合同教育研究全道集会での報告文書が添付されていたので、ご紹介します。
***(以下転載)**************
合同教育研究全道集会報告
第21分科会 環境・公害と教育
巨大風力発電の問題点-銭函砂丘の生態系を破壊して-
銭函海岸の自然を守る会 後藤言行
1.何が始まろうとしているの
銭函海岸に巨大風車が建設されることを知ったのは、今年の5月16日の新聞報道によってである。報道の内容は
1)「日本風力開発」が出力2000kwの発電機20基を銭函海岸に建設する
2)最大出力は4万kwであり、宗谷岬の57,000kwに次ぐ道内第2位の規模となる
3)3万kwの蓄電池施設も併設する
というものであり、これに対する小樽市の反応としては
1)蓄電施設の建設により固定資産税が期待できる
2)自然エネルギーの大規模な拠点誕生は市の環境イメージを高める
3)企業誘致促進や工事にかかわる経済波及効果も期待できる
4)情報収集などで建設計画をサポートし、企業立地促進条例で2年間の課税を免除する
と、手放しで歓迎している。
この報道は前日に行われた小樽市長の定例記者会見に基づいており、小樽市のHPで確認しても報道に誤りはない。
2.どこに、どんなものが造られようとしているの
風車建設が予定されている地域は「銭函4丁目および5丁目」の約5kmの海岸砂丘上である。一般的には「新川河口?石狩湾新港・西端」と呼べばわかりやすい。(別紙1およびスライド参照)
もともとこの地域は石狩町(旧)であったものだが、石狩湾新港建設にあたって石狩町から小樽市へ「無償で譲渡された」ものである。石狩湾新港の建設費の一部を小樽市に負担させるための措置だ、という人もいる。
建設予定の風車は支柱の高さ77m、支柱の根元の直径4.3m、ロータ-(回転翼)直径83.3m、地上からの最高の高さ118.6mとされる。設計図(スライド参照)を見てもその大きさはピンとこない人が多いのではなかろうか。
3.銭函海岸とはどんなところ?
「銭函海岸と聞いてどんなイメージが湧きますか」と聞くと、多くの人がとかく評判の海水浴場の名前を挙げる。しかし今問題になっている銭函海岸は、自然がそれなりに良好に保存されている海岸のことである。
自然の砂浜海岸は 砂浜、砂丘、後背湿地、後背林 と続くひとまとまりの生態系である。銭函海岸ではこのまとまりのある生態系がよく残されていて、特に後背の天然カシワ林は日本一と評価されている。石狩湾新港の建設で真中から分断されてしまったにも関わらずに(スライド参照)。
一般に海岸の生態系は、厳しい自然条件のもとで微妙なバランスの上に成り立っている脆弱なものである。スライドで見ていただいたように、地図に示されているような「荒地」では決してない豊かな生態系ではあるのだが、外部から加えられる環境圧にはきわめて弱いのだということを強調しておきたい。
4.建設工事はどんな具合になるの
(1) 基礎工事
7月31日に行われた業者の説明会によれば、ポール(支柱)の基礎工事は20m・20m深さ5mの穴を掘削して行われる。そこに最上部に直径4.3mのポールを乗せる台が頭を出す。基礎工事の途中および完成の写真(スライド参照)は同じ会社が江差で建設している風車のものだが、この土台の下には基礎杭として長さ42m、直径1.5mの杭が8本打ちこまれているという(視察日10月27日には基礎杭は見ることができなかった)。
なお、江差の場合は休耕田に建設されている。銭函海岸の場合は砂丘である。
(2) 作業道路
必要とされる道路は幅6m以上といわれる。車両のすれ違い、カーブなどを考えると部分的であってももっと広い面積が必要であろう。その道路は当然砂丘上に作られる。
(3) 工事用地
江差の工事現場では30m・50m=1,500m2 ということであったが、視察した江差の場合、それよりも広い工事用地がとられていた。たとえ20m・20m深さ5mで掘った土砂2000m3をそのままの形で積み上げることができても、それ以外のスペースで大型車両が作業するのに十分な広さとは思えない。
5.「銭函海岸の自然を守る会」は何を心配し、何を要求しているの
(1) 生物種の多様性を守るのは未来に対するわれわれの責任
7月14日に結成された「銭函海岸の自然を守る会」は「銭函海岸の自然をまるごと残そう」とのアピール(別紙資料)を発表した。ナキウサギのような生物がいる・いないにかかわらず、生物多様性を守るためにも今ある自然をまるごと残す必要があると考える。 特に自然海岸が少なくなっている中で、札幌のような大都市の近郊でこれほどまとまった良好な自然環境が残されている海岸はきわめて貴重な存在である。
繰り返し強調しているように、砂丘に成立する生態系が微妙で脆弱なバランスの上に成り立っているものであるがゆえに、いまこの生態系を破壊してしまえば永久に回復することは不可能になるであろう。
(2) 「環境影響評価方法書」のインチキ性
2度にわたる資料の請求に対して応じなかった会社側は、市役所の企画政策室の片隅に机一つをおいて「環境影響評価方法書」の「縦覧」を行った(スライド参照)。
風力開発会社の「方法書」の問題点はたくさんあるが、ここでは「動植物の生息または生育、植生の状況」に絞って述べる。
方法書では「北海道レッドデーターブック」や環境省の「生物多様性調査」などから生物種を抽出し「重要種の絞り込み」をおこなっているが、第一次で絞り込まれた種子植物17種のうち、「植物調査範囲」(「風車建設予定地」及び「道路用地」であると見なされる)(スライド参照)の砂丘地帯には決して生えないであろう植物がなんと14種も並ぶ。あまりにもばかばかしいので全種をあげておくが、要するに麗々しく植物名を並べることで市民に対するコケオドシをしているとしか思われない。(スライド参照)
・明るい広葉樹林に生えるもの:エゾエノキ、フクジュソウ、シラネアオイ、ヤマシャクヤク、オクエゾサイシン、エゾムグラ、キヨスミウツボ
・水中もしくは湿地に生えるもの:ハイハマボッス、チョウジソウ、タヌキモ、ミクリ
・海岸の断崖や岩場に生えるもの:エゾマンテマ、コハマギク、ピレオギク
・海岸の砂浜・砂丘に生えるもの:イソスミレ、エゾナミキソウ
・図鑑(梅沢俊氏)に載っていないもの:キセワタ(下線は第二次で絞り込まれた5種)
もう一つ、動物について述べているくだりを紹介する。巨大コロニーとして世界的に有名なエゾアカヤマアリについてである。(スライド参照)
『なお、保全措置の検討に際しては、調査結果を基に学識経験者の指導を仰ぎ、必要に応じてコロニーの移転や代替え生息地の創出などの保全対策についても検討する』
重要種の絞り込みやアリのコロニー移転を進言する「学識経験者」がいるのである。
(3) 低周波、超低周波の問題
全国に巨大風車がたくさん建つようになり、ようやくクローズアップされてきた問題に低周波・超低周波による健康被害がある。いや、最近になってようやく分かってきたのではなくて企業側(建設・製造会社、電力会社など)や、場合によっては行政によって抑え込まれたり沈黙させられてきたものが、抑えきれなくなって今、吹き出てきた感がある。
低周波の問題は直接五感でとらえにくい刺激であることや、その(エネルギーの)大きさなどの測定方法が一般的に普及していないこと、したがって(それをよいことにして)政府は安全基準や環境基準の策定をサボタージュしてきたものである。しかし、低周波などにより住民に深刻な健康被害がでていることは、行政やメーカーは早くから把握しており、開発当事者が自らの体験を踏まえて報告しているとの指摘(新聞報道)もある。
健康被害の実態は大気汚染と呼吸器疾患(喘息など)のように因果関係を特定しやすいものと異なり、めまい、吐き気、頭痛、不眠、耳鳴りから不安感、イライラ感など、「不定愁訴」を特徴としており、「低周波音症候群」と呼ばれる。潜伏期間や個人差もあって「過敏体質」「特異体質」で片づけられる(抑え込まれる)場合も多い。
さらに巨大風車によって出される5Hz以下の「超低周波」の被害は個人差も潜伏期間もなく現れ、低周波音症候群と区別して「超低周波空気振動症候群」の新名称が提案されているという。
銭函風車の場合、2km以内の範囲に稲北高校や手稲山口団地があるし、至近距離には工業団地で働く人たちがいる。
(4) 小樽市の対応に関して
小樽市は風力開発会社の「環境影響評価方法書の縦覧」に企画政策室を使用させている。 以前より小樽市は、過大な「楽観的予測」でハコものづくり(石狩湾新港、朝里ダム、築港ヤードのマイカル誘致など)に税金を投入し市民の負担を増やしてきた。
この問題はけ取り上げなければならないが、若干このレポートの趣旨と離れる面もあるので、次の指摘だけをして先に進みたい。
指摘することは「きわめて貴重な自然海岸の壊滅的な破壊を許しておいて(あるいは歓迎しておいて)将来、市民に対して責任が負えるのか」ということである。
(5) 砂丘を破壊するものは風車だけではない
砂丘の破壊に関してはバギー車やモトクロスバイクによるダメージ、ゴミの不法投棄による汚染もある。(スライド参照)ゴミの不法投棄に関しては行政による対応が十分可能であると思うが、バギー車などに対してはスライドに示す新聞記事の中で利用者が「悪いことをしているわけではない」と述べていることにカギがあると思う。
規制もさることながら、説得、啓蒙などにより市民合意を作り上げてゆくことの大切さ(困難さ)をつくづく感じる。
(6) そもそも風力発電はクリーンなエネルギーなのか。
最後に問題提起で終わるかもしれないが、みんなで調べ、学習し、考えてゆきたいこととしてこの問題を提起する。
発電しているときにだけCO2を出さなければクリーンだ、ではないことは当然である。
経済的効果から勢い「巨大へ」とひた走る風力発電は、低周波、超低周波一つをとっても早晩深刻な矛盾に突き当たることは必定である。
風力による発電量が増えた分、どの発電量が減ればよいのか、という問題もある。
不安定な風力電力供給の安全弁として、立ち上がりが早い火力発電が必須だとの主張もあるし、原発の暴走を防ぐためには他の「多様な」発電が必要なのだ、との指摘もある。
いずれにしてもエネルギーの使い方を論ぜずに生み出し方だけに論議が行けば、「どうしても必要なエネルギーなんだからある程度の犠牲はしかたがない」とか「原発はCO2を出さないからクリーンだ」などの主張に容易に取り込まれてしまうのではなかろうか。
(7) 追加 「補助金」をめぐる問題
原発にしても風力発電にしても、建設推進派はなぜにこのように強引に進めようとするのだろうか。
しっかりとした資料が入手できなかったのでこのレポートに述べることは控えたのだが、補助金の存在を抜きにしてはこの問題は語れないのではないかと思う。
補助金のからくりはかなり複雑・煩雑で、国や道の機関に問い合わせても明確な回答が返ってこない場合も多い。本当に知らないのか、とすればお粗末すぎるのでトボケテいるのではないかとも思われるのだが、「補助金を食いつぶして(そこで幾ばくかの利益を上げれば)あとはおさらばだ。風車が回らなくても発電ができなくても、損をする仕組みにはなっていない」と主張する人もいる。
さらには今年度から補助金申請の窓口が「資源・エネルギー庁」から、一般社団法人「新エネルギー導入促進協議会」に変わり、「地元調整」抜きで、つまり「地元承諾書」なしで補助金の申請ができるように変更されたという。
補助金はいうまでもなくわれわれ国民の税金である。「補助金に群がる貪欲なものたち」の図式そのものである。
***(転載ここまで)**************
日本で風力発電が「無尽蔵にあり、なにも消費せずなにも排出しないエネルギー」というふれこみで、増えだした頃。きんくろが当時住んでいた北海道苫前郡にも、数十機の風車が丘につぎつぎ建てられていきました。その頃は、まだ日本中が問題性をあまり認識しておらず、きんくろも「壮観だな〜」と眺めたりもしていました。当初はアセス対象でもなく「クリーンエネルギー」としてもてはやされ、ほぼ無法状態でどんどん建造されていきましたが、やがて環境関係者が首をひねりはじめ、その問題点が指摘され始めていったのです。
電力供給の不安定さからくる地方経済への負荷、騒音、振動問題、野生生物への負荷 etc...
なによりこれは人間が作る巨大建造物です。土地をならし、掘り返して基礎をうち、広大な敷地を維持管理して、しかも上空数10mまで占有する巨大建造物。得られる電力に対し、その環境&人間生活への負荷の割りにあわなさ、いかばかりか。
確かに風力はCO2も放射性物質も出しませんが、ほんとに予測不能で人間の制御できるエネルギー源ではないのですよ。「明日は明日の風がふく」のとおり、日本の気象条件では安定供給がのぞめるとは考えられません。何年か前ですが、予定の電力が得られなくて早稲田大学がつくば市に損害賠償の判決を下された裁判は、記憶に新しいですよね。まあこの件はいろいろ問題要素がゴタゴタしてたのですが、まずは現在の国内の現状としては、法制度、業界の経済的側面、技術面、からも事業として成り立たせられる状況ではないことをあらわにした件だと考えています。
風力発電を完全に否定するつもりはありません。たださまざまな問題点が指摘されはじめて10年余り、なのにいまだに「クリーンエネルギー」音頭で地方自治体が踊らされ、手放しで建造が奨励されている現状、リスクが大きすぎると思うのです。
参照:<小樽ジャーナル> 記事(2009/10/02)
「銭函海岸の自然を守る会発足 風力発電の影響訴え」
by kinkuro_puka
| 2009-12-22 20:46
| 自然情報(北海道